世界3億人に愛されるスポーツ「クリケット」って?(後編)スポーツは、多文化社会の居場所になれるか――クリケットが育む、人と地域のつながり。

2026年07月24日

世界3億人に愛されるスポーツ「クリケット」って?(後編)スポーツは、多文化社会の居場所になれるか――クリケットが育む、人と地域のつながり。

「クリケットを知っていますか?」と聞かれて、すぐにルールを思い浮かべられる方は、まだ多くないかもしれません。しかし世界に目を向ければ、クリケットはサッカーに次ぐ競技人口を誇るグローバルスポーツです。 前編では、世界中で親しまれるクリケットを実際に体験し、「好き」をきっかけに人が自然とつながる様子をご紹介しました。 では、なぜクリケットには、そんなコミュニティが育まれるのでしょうか。 今回は、GTNの共生パートナーである日本クリケット協会(JCA) CEO・宮地直樹さんと、女子日本代表として活躍する楠田-ネーン恵麗和(エレナ)選手へのインタビューを通して、クリケットが人と人をつなぎ、多文化社会の「居場所」を育む理由を探ります。(EP223)

▶︎前編はこちら https://wow.gtn.co.jp/454

🏏クリケットって、どんなスポーツ?

①世界で約3億人がプレーし、10億人以上のファンを持つクリケット(※)。イギリス、インド、パキスタン、オーストラリアでは国民的人気を誇るスポーツです。

②野球と"親戚"のようなスポーツ。「打って、走って、守る」が基本で、ボールは360度どこに打ってもOK。

③長時間の試合では、紅茶をのみながらゆったり観戦する文化も。試合だけでなく、その交流時間を楽しむのも、クリケットならではの魅力です。

そして、2026年の愛知・名古屋アジア競技大会の正式競技、2028年のロサンゼルス五輪では128年ぶりに正式競技へ復活することも決まり、日本でも注目度が高まっています。

(※)出典: ⁠International Cricket Council(ICC)「First global market research project unveils more than one billion cricket fans」(2018年6月27日)。競技人口は「More than 300 million participants」と公表。

「誰でも参加できる」仕組みが、多文化コミュニティを育む

日本クリケット協会(JCA)CEO・宮地直樹さん

宮地さんがクリケットと出会ったのは、小学生の頃。ロンドンで体験したことがきっかけでした。
「投げる、打つ、守るという親しみやすさがある一方で、クリケットにはスピードだけでなく技術や戦略など、それぞれの持ち味を生かして活躍できる面白さがあり、魅力を感じました。速いボールを投げる人もいれば、コントロールで勝負する人もいる。力強く打つ人もいれば、技術で得点を重ねる人もいる。それぞれが自分のスタイルで活躍できるスポーツなんです」

大学で再びクリケットと出会い、本格的に競技へ取り組むようになった宮地さん。そこで気づいたのは、日本のスポーツ文化との大きな違いだったそうです。
「日本のスポーツは学校や部活動を中心に発展してきました。でもクリケットは、学校ではなく地域のクラブを中心に育ってきたスポーツなんです」
学校ではなく地域のクラブを中心に育ってきたクリケットは、競技を楽しむ場であると同時に、人と人が自然につながる場でもあります。異なる国籍や年代、経験を持つ人たちが一緒にプレーすることで、新しい出会いや関係が生まれていきます
宮地さんは、そうした積み重ねが、多文化コミュニティを育んでいると話します。

栃木県佐野市にある佐野市国際クリケット場。日本クリケット協会(JCA)では全国各地で、クリケットを楽しめる環境づくりを進めています。

現在日本クリケット協会(JCA)では、栃木県をはじめ、宮城県、東京都、千葉県、神奈川県、静岡県、大阪府、愛知県など全国各地でクリケット場づくりを進めています。人口減少によって使われなくなった学校やグラウンド、河川敷などを活用し、「クリケットをやりたければ、やれる場所」を増やしていく取り組みです。

「例えば、ある日本語学校では、ネパールから来日する留学生に、最初の交流プログラムとしてクリケットを取り入れようという取り組みも進んでいます。勉強だけではなく、自然にコミュニケーションが生まれるきっかけになりますし、それは企業でも同じだと思うんです」

また、海外から来た人の中には、お酒を飲まない人や食事制限のある人も少なくありません。そうした人たちと関わる中で、宮地さんは、食事や飲み会だけではない交流の場の大切さを実感してきたといいます。
「クリケットがあると聞くだけで、『自分のことを考えてくれているんだ』とうれしく感じてもらえることもあると思うんです。日本人スタッフも一緒にプレーすれば、自然とチームワークも生まれていきます

違いがあるからこそ、チームになれる

女子日本代表の楠田-ネーン恵麗和(エレナ)選手

この日、国内最高峰の女子クリケット大会でプレーしていた女子日本代表でも活躍する楠田-ネーン恵麗和(エレナ)選手にも、お話を伺いました。

オーストラリアで生まれ育ったエレナさんにとって、クリケットは「始めよう」と思って始めたスポーツではなかったといいます。
「クリケットは特別なスポーツではなく、小さい頃から生活の中にありました。学校の授業でもやりますし、夏休みには家族や近所のみんなと道路やビーチで遊ぶんです。道路ではゴミ箱をスタンプ代わりにしてプレーすることもあって、本当に暮らしの一部でした。オーストラリアでは、夏はクリケット、冬はホッケーというように、季節ごとにスポーツを楽しむのが当たり前です。私がクリケットを本格的に始めたのは8歳の頃。父がコーチを務めるクラブチームで、弟や友達と一緒にプレーしていました」

学校が終わればスポーツ、週末もスポーツ。遊びの延長のような感覚で、クリケットはエレナさんの毎日に自然と溶け込んでいました。
「大学を卒業してギャップイヤーだったので、『もう一度日本で暮らしてみたい』という気持ちがありました。幼い頃に住んでいたこともあって、日本はなじみのある場所だったんです。ちょうどそのタイミングで日本クリケット協会から『働きませんか?』と声をかけてもらって、日本に来ることになりました。スポーツがなかったら、普通のギャップイヤーで終わっていたと思います。クリケットがあったから友達も増えたし、日本語も覚えられました。いろんな人と話す機会があったから、日本での暮らしがすごく豊かになったと思います」

エレナさんにとってクリケットは競技であるだけでなく、日本で新しい友人と出会い、言葉を覚え、この土地で暮らしていくための大切な支えにもなっていました。

日本代表チームも、多様なルーツを持つ選手たちで構成されています。
エレナさんは、「違いがあること」が当たり前だからこそ、お互いに確認しながらコミュニケーションを取る文化があると話します。
「私は日本語を頑張るし、日本の選手は英語を頑張る。お互いに歩み寄ろうとするので、自然とチームになっていけるんです」

「違いがあっても、一緒に楽しめる時間」が居場所をつくる

この日見えてきたのは、クリケットという競技の面白さだけではありませんでした。

宮地さんが語った「誰でも参加できる」スポーツという考え方と、エレナさんが話してくれた「お互いに歩み寄る」という姿勢。一人はコミュニティをつくる立場から、一人はその中でプレーする立場から話してくださいましたが、その根底にあったのは、「違いがあること」を自然に受け入れる文化でした。

住まいや仕事は、新しい生活を始めるために欠かせません。しかし、その土地で安心して暮らし続けるためには、「ここに居場所がある」と感じられるコミュニティもまた、大切な存在です。

クリケット場では、地域や企業、国籍や文化を越えて、人が自然に集まり、同じ時間を過ごし、会話が生まれていました。多文化社会に必要なのは、「違いを理解しよう」と身構える場ではなく、好きなことを一緒に楽しむ中で、自然と人との距離が縮まっていく場なのかもしれません。

佐野のクリケット場で過ごした一日は、「共生」とは特別な取り組みだけで実現するものではなく、日常の中で同じ時間を共有することから育まれていくものだと教えてくれました。一緒にプレーし、応援し、笑い合う。その積み重ねが、「ここに居場所がある」という安心感につながり、地域や職場での新しいつながりを育んでいくのではないでしょうか。

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🏏日本クリケット協会(JCA) https://www.cricket.or.jp/ja

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