本から学ぶ、多文化共生のヒント/第2回 『バクちゃん』

本を通して、異なる文化や価値観、人々の暮らしにふれると、世界の見え方が少し変わることがあります。この連載では、多文化共生について考えるきっかけになる本を、一冊ずつご紹介していきます。第2回は、遠い星から地球へやってきた、新たな土地で暮らし始めるバクちゃんの視点を通して、知らない場所で暮らすことの心細さや、そこで出会うあたたかさにふれる一冊、『バクちゃん』です。(EP214)

『バクちゃん』は、故郷を離れて地球へやってきたバクちゃんが、新しい土地で暮らしを築いていく物語です。区役所での手続きや口座開設、住まい探し、仕事探しなど、新しい場所で生活を始めるために必要なプロセスが、やわらかな世界観の中で描かれています。一見すると少し不思議でかわいらしい物語ですが、その中にあるのは、「知らない場所で暮らすこと」のリアルです。言葉や文化の違いに戸惑いながらも、一つひとつを乗り越えていくバクちゃんの姿を通して、"暮らし始めること"の難しさと温かさの両方に触れることができます。マンガなので読みやすく、普段あまり本を読まない方でも手に取りやすい一冊です。
知らない場所で「暮らし始める」ということ
言葉が通じない、仕組みがわからない、手続きが思うように進まない。日常の中で当たり前だったことが、一つひとつ手探りになる。その不安や心細さは、実際に経験してみないとなかなか見えにくいものです。
でも一方で、誰かに声をかけてもらえたこと、小さな出来事に助けられることもある。知らない場所での暮らしは、不安と同時に、人との関わりの中で少しずつ形づくられていくものでもあります。 多文化共生という言葉の背景には、こうした一人ひとりの体験が積み重なっています。
説明ではなく、「体験」として描かれる多文化共生
制度や手続きの大変さを知識として理解するのではなく、バクちゃんと一緒に戸惑いながら読み進めることで、「知らない場所で暮らすこと」の心細さがじわりと伝わってきます。そして物語の中には、バクちゃんを支える存在も。ハナちゃんや、同じように異なる土地から来た仲間たちとの関係の中で、少しずつ居場所が生まれていく。その過程が、静かに心に残ります。
「支援する側」からは見えにくい感覚が、この本を読むと少しだけ想像できるようになります。手続きの一つひとつがどれだけ不安を伴うものか。誰かに声をかけてもらうことが、どれだけ心強いか。GTNが日々向き合っている「暮らしの入口」——住まい、通信、金融、生活サポート——も、その先にいる一人ひとりの体験と地続きのものです。
多文化共生は、制度や仕組みだけでなく、そうした日々の体験の中で形づくられていく。言葉や文化の違いに戸惑いながら、少しずつ関係を築き、自分の居場所を見つけていく。そのプロセスをまず「想像する」ことが、共生への第一歩なのだと思います。
みなさんも、多文化共生について考えるきっかけになったおすすめの一冊があれば、ぜひ教えてくださいね!






著:増村十七
発行:KADOKAWA/ビームコミックス
※著者の増村十七さんは、本作で文化庁メディア芸術祭第21回新人賞を受賞。