“悪気のない一言”を、話し合えるものに。マイクロアグレッションから考える、多文化な職場づくり

2026年09月18日

“悪気のない一言”を、話し合えるものに。マイクロアグレッションから考える、多文化な職場づくり

「日本語、上手ですね」「お箸の使い方、上手ですね」。相手を褒めたい、会話のきっかけをつくりたい。そんな気持ちから出た何気ない一言が、相手との関係や背景によっては、意図とは違う形で届くことがあります。 こうした日常のコミュニケーションに潜む「マイクロアグレッション」について考えるワークショップを、GTNが明治大学・山脇啓造ゼミの協力のもと開催しました。2名のゼミ生が全体進行を担い、4人一組の各グループには、ゼミ生が一人加わり、ファシリテータを務めました。 参加したのはGTN社員に加え、さまざまな企業で働く皆さん。正解を覚えるのではなく、カルタを囲みながら、それぞれの経験や感じ方を話してみる。そこから見えてきた、多文化な職場で大切にしたいコミュニケーションのあり方を探ります。(EP230)

「これ、私も言ったことがあるかも?」

テーブルに並べられたのは、イラストと一文字が描かれた「マイクロアグレッション・カルタ」。
カルタを始める前には、たとえばこんな言葉がマイクロアグレッションの例として紹介されました。

「普通、女子の制服はスカートじゃないの?」
「アフリカ出身? 足速そう!」
「留学生なのに日本語上手だね!」

どれも、日常の中で耳にすることがあるような言葉です。

マイクロアグレッションとは?
日常生活の中で、無意識の偏見や思い込みが言葉や態度に表れ、相手に否定的・排他的なメッセージとして伝わることを指します。 特徴のひとつは、発言した本人に悪意があるとは限らないこと。「褒めたつもり」「会話のきっかけのつもり」だった言葉にも、無意識の思い込みが含まれていることがあります。

マイクロアグレッションへの「気づき」を社会に広げようと、山脇ゼミの学生たちが考案したこのカルタ。先輩から後輩へと引き継がれ、今回のワークショップでも、参加者が自身の経験と重ねながら意見を交わしました。
「カルタは子どもから大人まで楽しめて、馴染みやすく、親近感もあります。学生たちには、かわいいイラストにして、幅広い世代にマイクロアグレッションを知ってもらいたい思いもあったと思います。私たちはこのカルタを、親しみを込めて、マイアグ・カルタと呼んでいます」(山脇先生)

GTNの山田さん。

参加したGTNの山田さんは、カルタをきっかけに、自身のこれまでのコミュニケーションを振り返ったといいます。
「前職でも海外の方と食事をする機会があって、箸の使い方が上手だと、褒めたい気持ちで『上手ですね』『どうやってそんなに上手になったんですか』と話していました。会話のきっかけにしようと思って言っていたんです」(山田さん)

もちろん、そこに悪意はありません。それでも今回、「必ず相手が傷つくわけではないけれど、その可能性がある」と知ったことが、一つの気づきになったといいます。

「言ってはいけない言葉」を覚えることが答えではない

ピープルポートの藤井さん。

では、「日本語が上手ですね」「箸の使い方が上手ですね」は、これから言ってはいけないのでしょうか。

ワークショップで交わされた対話から見えてきたのは、そんな単純な答えではありませんでした。

ワークショップに参加した藤井さん(ピープルポート)は、「箸が使えてすごいね」という内容のカルタを見ながら、自社のメンバーを思い浮かべたといいます。
「それをすごく喜ぶメンバーもいるんですよ。『見て見て、僕も使えるの!』みたいな。そこのさじ加減って、人それぞれなんですよね」(藤井さん)

同じ言葉でも、うれしいと感じる人もいれば、違和感を覚える人もいる。相手との関係やその人自身の経験によっても、受け止め方は変わります。

LIFULLのソウさん。

一方、ソウさん(LIFULL)は、「アフリカ出身?足速そう!」というカードから、自身の経験を思い出しました。
「私も『中国出身だから、卓球が上手でしょう?』と言われたことがあります。上手だったとしても『そうですよね』と言っていいのか分からないし、下手だったら“中国人としてよくないイメージを与えてしまうのでは”というような複雑な気持ちもあって。回答しにくいんです」(ソウさん)

GTNの山田さんも、「その人が得意なことや不得意なことを、人種や国籍などに広げて、主語を大きくしてしまうこと」の危うさを感じたと話します。

「○○人だから」「男性だから」「女性だから」。目の前の「その人」を見る前に、国籍や性別などの属性から相手を決めつけていないか。 大切なのは、特定の言葉を「OK」「NG」と仕分けすることではなく、その背景にある思い込みや、目の前の相手がどう受け取るのかに目を向けることなのかもしれません。

企業の垣根を越えて見えてきた、それぞれの「当たり前」

GTNのへゼルさん(左)と笠村さん(右)。

GTNには、さまざまな国や地域にルーツを持つメンバーが働いています。だからこそ、多文化共生はお客様へのサービスだけではなく、私たち自身の職場でも向き合い続けるテーマです。

GTNでは2024年にも、社員を対象に山脇ゼミと同様のワークショップを実施しています。今回はそこから一歩広げ、他企業にも参加を呼びかけました。異なる企業で働く人たちと経験を共有することで、それぞれの「当たり前」を見つめ直す機会となりました。

中国出身のソウさんは、他社の参加者と話すなかで、背景は違っても「似たような経験をしている人が多い」ことに気づいたといいます。
「日本人の方が海外にいても、『アジアの人だから○○でしょう』と言われるなど、皆さんそれぞれ、同じような気持ちになる経験があったんだと感じました」(ソウさん)

一方、藤井さんのグループでは、「自分が言わないように気をつける」だけではない視点にも話が広がりました。
話題になったのは、金髪の女性に「金髪でかわいいね」と声をかける場面を描いたカードです。褒めるつもりで発した言葉でも、本人が戸惑っていたら、周りにいる人はどうすればいいのでしょうか。
「自分が気をつけるだけじゃなくて、言った人と言われた人が目の前にいたときに、どう間に入ってフォローできるかオフィスの中でも起きることだと思うので、それを考えるきっかけになりました」(藤井さん)

自分自身の言葉に気をつけるだけではなく、目の前でそんな場面が起きたとき、周囲として何ができるのか。対話を重ねるなかで、そんな視点も見えてきました。

小さな「違和感」を、話せる職場に

GTNの村上さん。参加者同士で、それぞれの経験や「当たり前」について意見を交わしました。

ワークショップで得た気づきを、日々のお客様とのコミュニケーションに生かそうとする参加者もいました。外国籍のお客様と接するGTNのヘゼルさんは、こう振り返ります。
「自分も外国籍なんですけど、他の外国籍の方に『日本語上手ですね』と褒めることがあり、それも実はマイクロアグレッションになるのではないかと、今回勉強になりました。今後のお客様対応に気をつけたいと思います」(ヘゼルさん)

そして藤井さんが自社に持ち帰りたいと話したのは、新しい「正解の言葉」ではありませんでした。
「普段はポジティブな目線の発信が多いんです。でも逆に、『これを言って困らせちゃったかな?』『嫌な気持ちにさせちゃったかな?』『実は困ったことがありますか?』と聞いてみたら、いろいろなエピソードが出てくるんじゃないかなと思いました」(藤井さん)

ワークショップの最後に進行役のゼミ生から伝えられたのは、「相手を傷つけることを恐れるあまり、コミュニケーションが萎縮してしまってはいけない」ということ。もし意図せず相手を傷つけてしまったと気づいたら、素直に謝り、相手の気持ちを受け止め、お互いの思いを話し合うことも大切だと呼びかけました。

もしかすると、自分たちの職場にも、まだ言葉になっていない小さな違和感があるかもしれません。それを誰かの「失敗」として責めるのではなく、「なぜそう感じたのだろう」と一緒に考え、話し合えるものにしていく。

悪気のない一言から生まれた違和感を、誰かが我慢したまま終わらせない自分とは違う受け止め方があることを知ろうとする。そんな日々の小さな対話の積み重ねが、多文化な職場づくりにつながっていくのではないでしょうか。

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