方言は壁? きっかけ? 外国人材が語る方言エピソード ― 方言から考える、多文化コミュニケーション【後編】 ―

前編では、日本各地に残る方言や地域特有の言い回しをご紹介しました。では実際に、日本で暮らす外国籍の方々は、どんな場面で戸惑い、どんな言葉を面白いと感じているのでしょうか。今回はGTNの外国籍メンバーに、印象に残っている方言や忘れられないエピソードを聞いてみました。さらに、外国人向けの方言ガイドを作る自治体の取り組みもご紹介します。(EP218)
方言がつなぐコミュニケーション
実際にアンケートでは、約2人に1人が「方言で困った経験がある」と回答しています。
では、どんな言葉に戸惑い、どんな交流が生まれたのでしょうか。

N.W.さん(韓国出身)
いらない書類は「ほかしといて」と言われたのですが、「ほかす」という表現を初めて聞きました。ネットで調べてもいろいろな意味が出てきて、結局聞いて初めて意味が分かりました。

H.C.さん(中国出身)
関西に住んでいたので、東京に来てからも普通に「マクド」と言っていました。すると、「本当に関西ではマクドって言うんだ!」と驚かれて話が盛り上がりました。また、接客中に「ほんで」という関西弁を使ったところ、「で」としか聞こえなかったようで、間違った日本語だと指摘されたことがあります。その後、「ほんで」だと説明すると、「それは間違ってないわ」となり、みんなで笑ったこともありました。

C.A.さん(ウクライナ出身)
「めんこい」「おおきに」「あかん」などの意味を聞いたことがきっかけで、会話が弾んだことがあります。

N.N.さん(ベトナム出身)
最初は大阪出身の同僚の話し方が聞き取れないこともありました。でも、「もう一度お願いします」と聞くと、いつも丁寧に言い換えたり説明したりしてくれました。さらに言葉の違いを通して、その土地ならではの文化にも興味を持つようになりました。
「『~しひん』『~せえへん』『~せなあかん』などの関西弁が分からなかった」(Nさん/インドネシア出身)
「関西出身の友人たちの会話が早口で聞き取れなかった」(W.Z.さん/中国出身)
「電話ではイントネーションが強くて聞き取りづらかった」(K.J.さん/韓国出身)
「何度も繰り返してもらって申し訳なかった」(K.J.さん/韓国出身)
「『難しいです』という表現が、できないという意味だと最初は分からなかった」(T.G.さん/ベトナム出身)
というコメントもあり、方言に限らず、日本語特有の言い回しやニュアンスに戸惑う場面もあるようです。
一方で、
「方言を話せるようになると、その地域出身の人との距離が縮まるかもしれない」(W.Z.さん/中国出身)
「訛りの強いおじいさん、おばあさんとも問題なく会話できたときは少し誇らしかった」(N.W.さん/韓国出身)
といった前向きな声も寄せられました。
最初は分からなくても、意味を教えてもらったり、聞き返したりするなかで、地域の文化に触れたり、新しいつながりが生まれたりすることもあります。方言は戸惑いの種であると同時に、人と人をつなぐきっかけにもなっているようです。
自治体も取り組む「方言の翻訳」
各地の自治体では、外国人住民や外国人材が地域で安心して暮らし、働けるよう、方言をわかりやすく紹介する取り組みが行われています。
そのひとつが、熊本県が作成した外国人材向けの「くまもと方言ハンドブック」です。
暮らしの中のコミュニケーションが、シーン別にわかりやすく紹介されています。
村井さんによると、外国人材の多くは日本語を学んで来日するものの、実際の職場では、地域特有の言葉が日常的に使われており、「学んできた日本語と違って理解が難しい」といった声が寄せられていたそうです。
また、在留外国人からは「方言がわかりにくい」という声も少なくなく、こうした課題を受けてハンドブックの制作が進められたといいます。
「方言への不安を少しでも減らし、安心して働き暮らせる環境をつくりたい」
そんな思いから制作された『くまもと方言ハンドブック』。外国人材本人だけでなく、受け入れ企業からも好評だそうです。
実際に企業からは、
・外国人材との会話のきっかけになる
・熊本への親しみや愛着が生まれる
・職場に早くなじめるようになると思う
といった声が寄せられているそうです。
「方言がわからない」という悩みは、個人の努力だけで解決できるものではありません。
だからこそ熊本県のように、「伝わらないことがある」という前提に立ち、地域全体でサポートしようとする取り組みが生まれているのではないでしょうか。
さらにこうした方言ガイドは熊本県だけではなく、各地でも少しずつ広がっています。
この取り組みから見えてくるのは、「本人が頑張ればいい」で終わらせず、「伝わりにくいことがある」と周囲が理解する発想の転換であり、その気づきこそが、じつは大きな一歩です。
『くまもと方言ハンドブック』はオンラインでも公開されていますので、興味のある方はぜひご覧ください。
▶︎外国人材向け「くまもと方言ハンドブック」
「伝わる」を支える職場づくり
前編・後編を通して見えてきたのは、方言による戸惑いは、単なる日本語能力の問題ではないということです。
今回集まった声を見ていると、「方言だから分からない」というより、「知らない日本語だから分からない」と感じているケースもあるようです。外国人材にとっては、それが方言なのか標準語なのかを区別する前に、「初めて聞く言葉」として受け取っていることも少なくありません。
外国人材が標準語を学んでいても、地域で当たり前に使われている言葉や、職場独自の言い回しまで理解するのは簡単ではありません。
たとえば、
・専門用語
・社内用語
・略語
・暗黙のルール
・地域特有の言い回し
こうしたものは、日本人同士でも戸惑うことがあります。
だからこそ、コミュニケーションのすれ違いを「日本語ができないから」と片付けるのではなく、「伝え方の違いかもしれない」と考えてみることも大切です。
外国籍社員とのコミュニケーションで大切なのは、「わからなかったら聞いて」という受け身の姿勢ではありません。「わからなくて当然」という前提で、こちらから分かりやすく伝えることです。やさしい日本語を意識したり、地域でよく使う言葉や方言をあらかじめ共有したりすることも、そのひとつ。そうした小さな工夫の積み重ねが、安心して働ける職場づくりにつながります。
方言は、たしかに戸惑いの種になることがあります。でも裏を返せば、「それってどういう意味ですか?」という会話のきっかけにもなるものです。
普段何気なく使っている言葉の中にも、実は方言が紛れているかもしれません。日本人同士でも、知らない方言に戸惑うことはあります。だからこそ、「伝わらない」のは誰かの能力の問題ではなく、言葉や文化の違いによって起こる自然なことだと捉える視点も大切です。
「それってどういう意味ですか?」
そんな一言から、会話が広がり、新しい文化や人とのつながりに出会えることもあります。方言は、ときに戸惑いを生む一方で、人と人をつなぐきっかけにもなっているようです。






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