外国人向け不動産賃貸の価値 ~40年以上前から感じていた必要性~

2022年06月21日

外国人向け不動産賃貸の価値 ~40年以上前から感じていた必要性~

皆さま、こんにちは。DIVERSITY TIMES編集長の山﨑です。
「不動産×外国人」を掛け合わせた際、昨今の事情はどうなっているかを皆さまご存知でしょうか。
このテーマに、1970年半ばから取り組まれている株式会社イチイの代表取締役 荻野 政男さん
先日2022年6月17日に、書籍『外国人向け賃貸住宅ノウハウのすべて』をご出版されたそうです。
今回はそちらを記念いたしまして、現在の想い等をお伺いしに行ってまいりました。

半世紀前にあった外国人賃貸の問題は

山﨑:まずは、新刊のご出版おめでとうございます!

荻野 政男(以下「荻野」):いえいえ、ありがとうございます。

山﨑:表題にもありますが、40年以上前から現在もおこなわれているお仕事の必要性に気付いていらっしゃったとのことで率直に感銘を受けました。

今ですと「現在と10年前」を比較して物事を語られている文献はかなり見かけますが、「10年前と50年前」を比較した際にはどのような違いを感じていらっしゃいますか?

荻野:私の印象ですと、10年前にはすでに様々な方がいらっしゃっていたと思います。韓国・中国はもちろんですが、ベトナム・ネパールなどといった方々が暮らすようになってきました。

たとえば、新大久保なんかも以前は「リトルコリア」と呼ばれていますが、今じゃだいぶ違ってきていますよね。
10年前といえばちょうど、新大久保のそういった変化が始まった時期だったのではないかと記憶しています。
山﨑:そうですね!私も新大久保勤務が長かったですが、本当に街ではあらゆる国籍の方を見かけますね。

荻野:それに対し50年前ではまだ国籍問わず「外国人」という一括りで見られていました。中国人なのか台湾人なのか など、多くの方が関心を持たず「日本人か日本人以外か」という感覚でいたと思います。

その頃に私が外国人向け賃貸の事業を始めたのですが、当時は話題として着眼されるのはどちらかというと差別問題の要素が強い印象でした。
10年前には「外国人を住まわせるのは言語や文化差の壁があるから不安」というお声をよく聞きましたが、
50年前にはそれ以前の「日本国籍じゃない人なんて!」という具合に、事情そのものが違っていました。

山﨑:そうだったんですね…物件オーナー様が出す外国人NGも、当時は今のものよりさらに痛烈だったんですね。歴史的な背景も見え隠れする非常に根の深い話です。

荻野:一方で、実際のところの当時の外国人を大きく分類すると、圧倒的に大半を占めるいわゆる在日と呼ばれる一般の方々と、ごく一部の大使館や大手商社勤務などの富裕層な方々がいました。そして当時の「外国人への賃貸」というビジネスは当然のようにその後者の方々だけに向けられたものだったんですよね。

そうなるとご想像いただけると思いますが、「外国人が借りられる物件」は家賃が月50~60万円、高いところですと100万円を超えてくるようなものしか探せなかったわけです。

山﨑:居住用でですよね…皆が皆そんな価格帯の物件を借りられるはずもないでしょうから、当時には想像を絶するほど悩まされた方々がたくさんいたのですね。

荻野:そうです…しかしそこから、1970年代も後半にさしかかり、そのところの常識が変わってきます。日本語学校の設立が活発になり、来日してくる外国人の層が一気に多岐へと広がっていきました。

そうすると、ずっと日本にいる「国籍だけが日本以外」という方々だけでなく「本当に外国から来る外国人」。今度はこういった方々に対応する住居の問題が始まったわけですね。そこから年月を経て、国籍などによっても工夫する点が異なるという点に慣れてきて現在に至るという流れです。

山﨑:ありがとうございます。元々日本は鎖国文化も長かったこともありますし、欧米諸国と比較しても随分はこの当時から遅れをとらざるを得なかった感じですね。

荻野:そうですね。歴史が絡むお話なので、しかたがなかったと言えなくもないですよね。
私は大学生の頃にアメリカ一周の旅は経験しましたが、日本とは光景が全然違いました。アメリカはもう全員が全員お互いに外国人だっていうほどでしたから(笑)

アメリカの後にはイギリスのロンドンにも行きましたが、そこもむしろ大衆の中からイギリス人を探すほうが難しかったぐらいです。飲食店など業種によっては、その当時すでに従業員は全員外国人でしたよ。

それらの経験が荻野社長の仕事の原点

山﨑:荻野社長は、以前2015年にも本をご出版されていますよね。そこにも記述がありましたが
ロサンゼルスで見た「コルピングハウス」、この出会いが日本にものちに「シェアハウス」という形で世に浸透していく最初のきっかけだったんですよね!

荻野:実は私の実家が貸家業を営んでいたんですよね。一番最初のアパートは私が10歳の頃だったかな。40所帯ぐらい入居できる6畳一間の物件でしたが、大家と店子(たなこ)の関係ではありながらわりと親身になって接する機会が多く、入居者と一緒に住むことには昔から慣れていたんですよね。

山﨑:え!ということは、実はそこにルーツの中のルーツがあったんですね?

荻野:そうなんです。それに加えてロサンゼルスで見たコルピングハウスですよ、老若男女国籍境遇問わず、本当に多種多様な人たちがひとつ屋根の下で暮らしているというのがとにかく面白く感じました。と同時に気付いたのが「あ、日本にはこういうの無いな」って点ですよね。実家の貸家業もやはり当時は日本人だけでしたし。そこで、こういうものの紹介センターをやりたいなと思ったのが「J&Fプラザ」のはじまりでしたね。

山﨑:「【ゲストハウス】という単語を世に広めたのはまさに荻野社長だ」と後藤(GTN代表)から聞いておりますが(笑)

荻野:それはどうなんでしょうかね(笑)まぁ、当初は「外国人ハウス」という名前でやっていたんですよね。これを広めたのは私ですね。
私が事務局を務める「まち居住研究会」というグループがあるんですが、そこでの人脈でご縁があり新聞記者さんと知り合えたんです。2000年でしたが、それを通じて日本中に展開していきました。記事の見出しに『外国人ハウス、続々』みたいにですね。

そこから「外国人ハウス」→「ゲストハウス」→「シェアハウス」と名前が変化していきましたものなので、昨今のシェアハウスのブームに向けて口火を切る一歩だったのかなとは思います。

山﨑:賃貸事情の常識にまさに一石を投じてこられたわけですね!その新聞拡散の機会以前にはどんなところで苦労されましたか?

荻野:やはり貸主への説得ではないでしょうか。どうしても言語や文化の異なる人に部屋を貸すということに大きく不安を抱く人は多いんですよね。

ただ、その「外国人に貸す不安」と「空室であり続ける不安」のどっちがイヤかと言えば後者なんですよね。
これは前回の本にも記載ある話ですが、貸家業として存続させるために物件の建て替えが必要なケースがありました。18所帯中17所帯はすでに空室、残り1所帯も入居者ご本人の意思で退去くださるまで待たなきゃいけない。
こういった状況の時に、定期借家契約を駆使して短期滞在の外国人の方でも空室を埋めるという工夫もしましたね。

オーナーのご事情に寄り添って提案していくことで、徐々に外国籍の方の入居に対する理解を得てきました。

山﨑:J&Fハウス利用経験者も、お聞きするところですと60カ国以上の方にのぼるそうで、その多くの方から好評をいただいていると耳にしていますが、その裏付けには納得のたゆまぬ努力があるのですね。

荻野社長の本は、まさに実用書!

山﨑:今回取材の機会を頂戴するにあたり、私も荻野社長のご活躍について色々調べさせていただいたんです(笑)
もちろんその前回の本も拝読したわけですが、今でも「へぇ!」となる情報もたくさんありました。

荻野社長の想いを乗せたその本が世間にも渡り、同時に在留外国人は当時と比べてもさらに増えてはいますが、どうでしょうか、外国人に理解あるオーナー様は順調に増えてきている手応えは感じますか?

荻野:一概に断言しきれないことをご容赦いただきたいですが、増えてはきてるとは思います。ただ、まだまだ足りないなとも感じます。どうしても、入居させたことで実際に迷惑を被って外国人YESだったオーナーがNOになってしまうケースも完全にゼロではないので、常に上下しつつ微増しているイメージですからね。

というのも、「外国人を助けたい」より「空室が怖いから」が動機であるオーナーもいますから。ただ、それを責めることは決してしません。何のために賃貸業をやっているかというのはオーナーそれぞれに意向と事情はあるので。

山﨑:ご理解いただける範疇でというところですね、それが増えてくれればといった感じですね。そもそも、外国人賃貸をやるメリットはどういったところにありますか?

荻野:まず間口を広げることは不可欠ですからね。日本人の人口が今後も増え続けるならいいんでしょうけど、ご存知のとおりこれから先の時代は…。なのでさまざまな属性の入居希望者に対応していくことが求められてきますが、高齢者などを入れようと考えたら物件をバリアフリー化させないといけない、などと課題が出てきますよね。
その点、外国人には物的な準備は一切要らない。

家賃債務保証をみてくれる会社の登場は、外国人を受け入れるにあたってかなり良い追い風となりました。
「不動産事業者がOKだと言ってくれるなら」と、オーナーのOKをいただきやすくなったことは大きいですね。

山﨑:えーと、ありがとうございます(笑)

荻野:地方は特にチャンスですよね。「都心か田舎か」の検討に日本人ほどの差異は持たないので、地方ほど外国人入居者を獲得できるチャンスだと思います。もちろん東京都内でもこのコロナ禍があってチャンスに転じてるケースも見受けますが。

そして今月(2022年6月)。新刊の出版へ

山﨑:さて…いよいよ今回の新刊に触れさせていただければと思います。

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まず、改めて今回新たに出版されようと考えた経緯はどんなことだったのでしょうか?

荻野:実は今回の話が私のもとへ来たのは2019年だったんですよね。そこでは、世界がコロナ禍に包まれるとは予想だにしていなかったですので、2020年の東京オリンピックで変化する「不動産×外国人」の考え方、その流動を描こうと考えていました。以前の本の増刷という選択肢もあったのですが、オリンピックのこともありましたし、その他にも情報を色々と更新することにしたんです。

あと、私の持論なんですが、「東京2020は4度目の開国だった」と思っているんですよね。
1853年の黒船来航、1945年の終戦、1964年の東京オリンピック、そして今回と。それほどビッグイベントなので入管法の改正など、政策面でも動きがあると考えたんです。
また、移民についての取り組みも以前から準備は進んでいたものの2008年のリーマンショックで一度頓挫していましたが、それもこのオリンピックを機に改めて本格的に始まるなと感じたところも理由のひとつですね。

山﨑:なるほど、ありがとうございます。しかしコロナ禍に突入し…少々予定が狂った形ですね。

荻野:そうですね、コロナがある程度まで落ち着くまで待とうということで、今月になりました。

山﨑:新刊の目次だけ拝見したんですが、コロナに関することも収録されているんですよね?

荻野:そうですね、やはりこの時期に出す外国人に関する本なので、アフターコロナについては綴らせていただきました。
実際、外国人賃貸をやっている方たちはこの2年間とても大変な思いをされていますしこれから先の不安もあるでしょうから、そんな皆様に「不動産×外国人」を長く手掛けている立場として「大丈夫だよ、またこれから外国人が増えてくるよ」というメッセージも込めさせていただきました。

山﨑:すごく励みになります…ぜひこれからも頑張っていきたいです。
山﨑:前回の本をすでに読んだことのある方に向けたオススメの読みどころはどんなところでしょうか?

荻野:前回の本にもノウハウはかなりたくさん入れたつもりですが、今回の本は、具体的に対応する方法などを、実用書テキスト風にまとめ直したイメージで綴りました。途中途中で出てくるデータ等は最新のものに入れ替えましたし、内容もおそらく増やしたかと思っています。

あとはさまざまな家賃債務保証業者様をはじめポータルサイトの紹介など、そういったことを前回よりも多めに入れさせていただきましたので、ぜひ参考にしてみてください。

山﨑:まさに外国人賃貸マニュアル!といった感じですね。

荻野:そうですね。前回の本はどちらかというと、外国人賃貸について理解を深めてもらいたいなというものでしたのでできるだけ読みやすさ重視でしたが、今回の本はより実用的ですね。

山﨑:前回の本、まだ読まれない方は…どっちも読んでね!でしょうか?(笑)

荻野:いや~、お忙しい方も多いと思いますので、今回の本だけでも押さえていただければ大丈夫かと(笑)

荻野社長が予想する「不動産×外国人」事情の変化

山﨑:ここまでのお話で、世間のオーナーや管理会社に持っていただきたい意識についてお聞きしてきました。
これから先も外国人に不動産のサービスをご利用いただくにあたり、今後こんなふうに変わっていくのではないかなと予想されていることって何かありますか?

荻野:はい、特定技能の登場によって借り人事情が変わってくると思います。

今まで単純労働者というのを大手を振って受け入れてはいませんでしたが、これを受け入れていくというのを日本国が舵を切ったわけなので、どんどん増えてくるだろうと。

そこで大きく異なる特徴になってくるのは、特定技能の住居については多くの場合、会社が社宅として確保しての本人へ提供が主流になるのではないかと予想しています。

あと、従来の技能実習生ですと(酷な例ですが)「寝れさえすればいいんだから2DKに5人の相部屋でOK」みたいなことは当たり前のようにまかり通っていましたが、特定技能となると日本人並みの給料を稼ぐ方も多いでしょうから、それに伴って住環境に関しても求められるようになってきます。
山﨑:なるほど、「外国人なんだから安いところ探してんでしょ?」というような風習が淘汰されていきますね。

荻野:そのとおりです。この点からも読み取れるように、時代の変化ともに外国人も変わっていることをちゃんと理解しないといけませんよね。いつまでも「日本が豊かな国・選んでもらえる国」だと思わない謙虚な姿勢が必要です。

山﨑:そのキーワード、DIVERSITY TIMES内でも再三にわたり登場してます(笑) なのでまさにおっしゃるとおりだと強く思っています。荻野社長、「不動産」を抜きにしても外国人と良く接していくために必要な心構えってどんなことですかね?

荻野:心構えですか。そうですね…留学生からよく聞くこととしては「日本人はとっつきにくい」。

たとえば学校でも、最初にクラスに入った時にはほとんど誰も話しかけてくれない。いきなり嫌われたんじゃないか?と感じてしまうほどだそうです。

半年かけて打ち解けてくれた頃にはすごい皆いい人たちだとわかったけど、そうなってくれるまでに時間すごくかかったな~っていうのがその時の思い出だったとか。
 
山﨑:なんとなくその情景が思い浮かびますね…

荻野:なので、外国人の方に対しては特にフレンドリーに。阿吽の呼吸みたいなもので悟らせるようなことをせず、本音で話し合うのが大事ですね。同じ環境で育ち、同じ食事をして、同じTVを観て、などしてれば阿吽の成立もするんでしょうが、それが通用しませんからね。

これからのイチイ

山﨑:惜しいところですがお時間が迫ってまいりました。最後になりますが、今後イチイで成し遂げたい目標・ビジョンがありましたらお聞かせください。

荻野:弊社の理念として掲げブランディングもしているのが、「もう一つの知恵と工夫でこころ豊かな暮らしを」ということで「プラスライフ」というのがあります。

賃貸居住者が地域の一員として|プラスライフ(+Life)|イチイ – イチイグループ|不動産仲介・運用・管理

イチイグループの「プラスライフ(+Life)」とは、お客様に提供している住まいの情報とサービスを一つに統一したネーミングです。一般賃貸住宅をはじめ、高齢者向け、外国人向け賃貸のほか、貸主・借主への賃貸管理サービスや不動産運用・コンサルティング事業におよびます。

荻野:外国人というのもこの件の大事な1ピースですが、それ以外にも高齢者・ペットを飼いたい方・赤ちゃんを育てている方・色々な方との共生を、また、単に建物だけというわけでなくそのまちに住み続けられる仕組みづくりを手掛けております。「分散型サ高住」もそのひとつですね。

今後の賃貸不動産の管理業ってのは、もちろん建物の管理もそうですが、そこに住まう方が地域の一員として快適に住めるように努める必要があると考えています。高齢者も、若者も、ペットも、そして外国人も。それが私がアメリカで見て刺激を受けた、暮らしの在り方のひとつではないかと感じています。

山﨑:非常に素晴らしいですね…これからもぜひ応援させてください。本日はありがとうございました!

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